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質問箱019 佐世保セイルタワーのプロペラについて

(1) 問題提起

05/01/29

(2) 防衛庁の回答

05/03/08

(3) 推理1 カーチス製か?

05/03/30

(4) 推理2 裏返し展示ではないか 横廠式ロ号甲型水上偵察機の可能性 14/12/15

 

A8302-2 長崎県佐世保市 海上自衛隊佐世保史料館セイルタワー
       Sasebo Sale Tower, Sasebo City, Nagasaki Prefecture                       

◎ 佐世保セイルタワーの 川西94式水上偵察機 のプロペラ 

 川西航空機株式会社を飛行機メーカーとして確固たるものにした名作、94式水偵のプロペラです。 

 添えてある機体写真は空冷の瑞星エンジンを装備した94式二号水偵ではなく、水冷エンジンの94式一号水偵です。館内のオール艦船の展示品のなかで見つけた唯一の飛行機関連部品でした。その下の模型は空母雲龍です。

撮影2003/05/16 佐伯邦昭 (説明員の許可済み)
        

  

(1) 問題提起 かつお  文 佐伯邦昭    提起

 

問題 これは本当に94式水偵のプロペラですか?

 どうも違うようだと、かつおさんから問題提起がありました。

 その理由に次の3点をあげています。

@ ピッチが、当時の一般的なプロペラとは逆である。
A 縁の曲線が大きく、94式水偵とは異なる。
B 先端のガードが鉄製のようである。(通常は真鍮製)

それを、写真で見てみましょう。白線はピッチ角を示します。

 

川西94式水偵試作機 世界の航空機1953年6月号より
量産機は1号水偵が十文字に組み合わせた4枚ペラ、2号水偵が2枚ペラですが、ブレード形状は同じです
 

 明らかにピッチが逆であることとブレードの形状が大きく異なっているのがわかります。

 94式水偵は、昭和7年に設計指示を受け、8年には試作機が初飛行し、9年に制式採用されて量産が始まっていますが、この時期の飛行機でこのような形状の逆ピッチプロペラを使った例があるのかどうか、川西が試験的に取り付けてみたのかどうか、よくわかりません。

 感じとしては、昭和初期以前のプロペラのようです。例えば、ハインケルHD-25を川西で国産した2式複座水偵(ネピアライアン搭載)の写真を見ると明らかに逆ピッチです。

 どうもそのあたりの飛行機に近いような気がしますが、これだけでは判断できません。皆さんはいかがでしょうか。

 佐世保史料館館長さんにお願いします。94式水偵のプロペラに違いないかどうか、違っているとしたらどの飛行機のものかもう一度来歴等を調べていただけないでしょうか。

 なにしろ、セイルタワーの中では、ジオラマや模型は別として、このプロペラが唯一の日本海軍航空の証拠品なのですから。

 

(2) 防衛庁の回答2
 

2005/02/03 防衛庁人事教育局教育課 冨川氏から 回答

 1月29日ご質問頂きました標記について、別添のとおり回答致します。

別添

 佐世保史料館展示の旧海軍機プロペラについて
 ご指摘のプロペラについては、約35年前に所有者から海上自衛隊に寄贈されたものです。この度のご指摘を受け、現在、確認中です。
 


2005/03/08 防衛庁人事教育局教育課 冨川氏から回答
 

1月29日にご質問頂きました標記について、下記のとおり回答致します。

                          記

佐世保史料館展示の旧海軍機プロペラに関する表示について

1 当該プロペラの確認結果  
 ご指摘のプロペラについて、確認の結果、プロペラの回転方向、大きさが94式水偵のものと異なることが判明しました。なお、機種の特定には至りませんでした。
 
2 館内の当該プロペラの表記変更  
 「94式水上偵察機のプロペラ」から「昭和5年に海軍から払い下げられたプロペラ」に表記を変更しました。更に、94式水偵の写真についても、表記変更に合わせ、取り外しました。

 ご指摘ありがとうございました。

 インターネット航空雑誌ヒコーキ雲の真面目な問題提起の努力がまたひとつ実りました。提起したかつおさんと対応された防衛庁の皆様にお礼を申し上げます。

 残るは機種の特定です

 

 

(3) 推理1 カーチス製か?3

 
 94式水偵のもとは異なることがはっきりしましたが、「昭和5年に海軍から払い下げられたプロペラ」というヒントから、機種の特定を試みましたが、残念ながら突き止めることができませんでした。

@ 「払い下げ」からの推理

 「払い下げ」でまず頭に浮かぶのは新聞航空です。

 朝日新聞社が主として陸軍機、毎日新聞社が主として海軍機の払い下げ機を使用しました。その系列で、朝日は陸軍97司令部偵察機神風号による訪欧飛行、毎日は海軍96式陸上攻撃機ニッポン号で世界一周を成し遂げるわけです。

 毎日新聞社の昭和初期までの海軍払い下げ機は次のとおりです。
        三菱10試艦偵  7機
        三菱13式艦攻  5機

 これらの毎日新聞での使用途廃止棄後にプロペラが誰かの手に渡り、周りまわって佐世保セイルタワーへ寄贈されてと考えられなくもありません。ただ、10試艦偵のプロペラは、写真で見る限り回転方向が94式水偵とは逆のようです。13式艦攻のピッチは写真で確認できませんでした。

 新聞社関係での昭和初期の海軍機は、小樽新聞社でも10試艦偵を2機使っていますが、大正15年払い下げというので、時期が異なります。

 新聞社以外にも、民間払い下げは多数あったようですが、資料不足で調査未了です。

A 形状からの推理

カーチス独特の被包カーブ(雑誌ヒコーキ野郎1976年6月号から)
 

 

 

 

 

 



セイルタワーのプロペラ



 

 

  カーチス式プロペラの特徴と言われるブレード先端の鋼鈑覆いの被包が似ており、ヒコーキ野郎の野沢さんの記述うどん屋にあった60年前のカーチスのプロペラなどからみて、カーチス製もしくはカーチス製を真似て作ったものかと推定されます。

 しかし、鋼鈑覆いとハブフランジの止め金穴8個、反時計回転というこのプロペラを装着した海軍機というのは、未だに不明です。


参考 反時計回転のプロペラを装着した軍用機一覧

 寫真日本軍用機史 附・新鋭機形態輯 (昭和15年頃海と空社発行)の写真から拾い出し

海軍
ショート式水上偵察機 サルムソン20馬力
10式水上偵察機 ロレーヌ水冷式V型400馬力
10式艦上攻撃機 ナピアライオン水冷式V型450馬力
13式陸上練習機 ベンツ水冷式直列型130馬力
13式水上練習機 ベンツ水冷式直列型130馬力
13式2号3号艦上攻撃機 ヒ式500〜600馬力
2式水上偵察機 ナピアライオン水冷式450馬力
3式陸上練習機 モングース空冷式星型130馬力
90式3号水上偵察機 ジュピターF9型空冷式星型450馬力

陸軍
丙式1型戦闘機 スパット13型 イスパノスイザ水冷式V型220馬力
乙式1型偵察機 サルムソン2A2 サルムソン9Z型水冷式星型230馬力
スパッド・エルモン20C2型 丙式2型複座戦闘機 スパッド20C2 イスパノスイザ水冷式V型300馬力
91式1型単座戦闘機 ジュピター空冷式星型480馬力與壓機 

 

(4) 推理2 裏返し展示ではないか 横廠式ロ号甲型水上偵察機の可能性     推理2

2014/12/15 にがうり

 問題の木製プロペラについて2014/12/8 に訪問した時に、タワーの職員さんが親切にも付き添ってくれて説明を受けました。

 その職員によれば「大正13年頃に現佐世保市の崎辺町にあった海軍基地(水陸両用飛行場)で飛んでいた複葉水上機のプロペラで、詳細は不明ですが、昭和5年頃に手に入れた人がセイルタワーに寄贈したものです。」とのことでした。

 そして 、私の見た感じでは壁掛け展示のプロペラ・ブレードの形が若干おかしくて展示向きの表裏が逆か? それによってはピッチの向きも変わりますが、そこで横から見た感じではブレードのキャンバ面(膨らんでる面)が壁側なので裏返し展示のようです。

表(前)面


 当時はプッシャー型プロペラ機や逆回転エンジンもあるや?なので、それ用の逆ピッチ・ペラかとも思いましたが、ハブ面その他だけでは判断できませんでした。

 いろいろ古い機体写真や資料を当たりましたが、決め手になるような確実な写真や資料は出ません。そこで比較的正確な資料として「大正時代の日本の名機百選」(愛知県)の模型写真から
 「(8)横廠式ロ号甲型水上偵察機(後期量産型の三菱製イスパノスイザ200馬力エンジン)」
 「(25)川西K-7A型水上輸送機」
 及びその系列である川西K-8シリーズ)のブレード前縁保護金属板の外観が展示ペラ
に似ている2機種が出ました。
 
 この時代はまだ他にも多くの機種がありますが、どれも写真のプロペラ外観違いや細部不明確で確認ができません。

 しかし、職員の話しから崎辺町の海軍基地の機体であれば横廠式ロ号甲型水上機が有力です。 横廠式甲型水上機は最初の国産の海軍制式機で、大正8年4月にはこの機種の長距離改造型が追浜〜呉〜鎮海〜佐世保 〜追浜の長距離飛行(復路は佐世保から紀州沖を迂回し追浜まで11時間32分)という当時としては驚異的な記録をを成し遂げた名機でした。佐世保 航空隊(大正7年発足)にも当然いたと思われます。

 さらには民間に払い下げられて昭和3年頃まで郵便輸送にも使われたそうです。そして川西K-7A型水上輸送機とその系列K-8シリーズもあり得ますが、その確認には至りませんでした。以上残念ながら機種の確定は出来ませんでしたが、これら実証できる記録文献が今後出ることを期待します。

上記の出典元
1960年出版協同刊「日本の航空機-海軍機篇-」
大正時代の日本の名機百選
wikipedia
空港探索3
天翔艦隊
YouTube航空科学博物館