通信手としてモールス信号は必須のものですから、懸命に覚えました。この九二式電話機で電鍵を使った記憶は無いのですが、実地では電話機回線破損時の非常用として、モールス信号を手旗で送る訓練はかなりやりました。
一般にはあまり知られていないのでちょっと説明します。
「手旗信号」と言えば赤白の旗を両手に持って、その動きでカタカナを描くのが基本ですが、モールス信号の手旗送信は、白旗を右手に持って旗竿を横水平に、胸の高さに軽く差し出します。(旗の柄の部分は旗の幅一杯程度と短い) そのままの姿勢で旗を縦に上下するとモールスの短音「・」を表現。右方向へ大きく振る(交通誘導のように)と長音「−」を表現します。
この時の注意点は、旗が旗竿に絶対に絡まないように、開いたまま“はためく”ように振ることが最も重要でした。
《例》 −・−・− −・−−− −・−・・ ・・・− −・−・ −−・−− −・−・・ この「・」を縦振り「−」を横振りすると「サエキクニアキ」となります。
送信の場合は、は送る文字が事前に分かるが、受信は瞬間的な判断が必要なので、慣熟には時間がかかりました。以上、参考までに。
追記
ヒコーキとは畑違いの思い出が発表されて驚きました。佐伯さんはモールス信号は翻訳の二度手間で面倒な方式ではないかと書いていますが、そういえる面もありますが、実際には、略語を多用するので、それほどでもなかったのです。
例えば「照準点」(照準設定の基準位置)は ン
「左」は ヒ
「初弾1発撃て」は ショ1ハテ
「60m右」は 60ミ
また、送信本文の前後には、必ず「始めるぞう」「おわり」の・・・ー・を付けます。
さて、実戦では上陸前の艦砲射撃で有線電話回線など簡単に遮断されるし、樹木の多い山林の中では手旗交信も極端に限定されますから、米軍相手では戦争にならなかったでしょう。戦争末期に、こんなものを一生懸命に訓練していたのかと思うと暗然たる気持ちになります。