評 ・ 佐伯邦昭 CONTRAIL
No.181 2000年Winter号に発表
書名 「いまに残る姫路基地」 この鶉野の大地には姫路海軍航空隊・川西航 空機鶉野組立工場があった
編集資料収集 上谷昭夫
発行 平和の碑建立実行委員会 |
・ 海軍姫路基地の百科辞典
この書物の性格を端的に表現するならば、海軍姫路基地の百科辞典であり、かつ地域から全国民に発信する鎮魂のメッセージです。姫路海軍航空隊と川西航空機組立工場のあった兵庫県鶉野での基地建設から終焉までの歴史が、歩いて集めた実資料と関係者の聞取りで収集整理され、豊富な写真とともに一冊にまとめあげてあります。
一読してよくも丹念に史実を踏査したものだと驚かされます。 鶉野の姫路基地に関することなら何でもわかる百科辞典というにふさわしいのです。
・ 魂の呼びかけがあったに違いない
私は、上谷昭夫さんと協力者達が戦中の航空隊や工場の跡を今に残す鶉野から魂の呼びかけを聞いたに違いないと確信しています。魂の呼びかけが、史実の発掘と建立の原動力となりました。平和祈念の碑は地元を始め旧航空隊、川西の関係者など全国から多額の浄財が寄せられ、昨年10月鶉野の一角に建立されました。 併せて刊行されたのが本書です。
終戦とともに過去の遺物となった姫路基地、その全貌を記録し出版することは、ここから特攻隊として出撃していった若者への鎮魂であり、基地建設のために犠牲となった人々や過酷な労働を強いられた人々の歴史の上に、今の私どもがあることへのメッセージにほかなりません。
・ 精力的な調査と資料収集
鶉野の海軍航空隊は、甲種飛行予科練習生の訓練等から始まって、戦局の急迫とともに実戦部隊も配備され、遂には神風特別攻撃隊白鷺隊が編成されて鹿児島串良基地経由で沖縄に出撃するに到ります。また、川西航空機鶉野組立工場は、姫路で製作された紫電(466機)と紫電改く43機)の組立てを行いました。
本書でのこれらに関する資料は多彩です。例えば基地建設のくだりでは、用地を担当した内務省の内局から近畿土木出張所まで資料や写真がそろっています。 したがって基地施設の詳細から海軍施設隊の編成名簿まで網羅してあり、この種の航空史では異例の幅の広さです。
ですから、本書の骨格を成す航空部隊と川西組立工場についてはここでは紹介しきれません。ぜひ実書にあたってほしい。一地方のわずか3〜4年余りの基地であっても、東北から九州までのさまざまな航空隊と関わりがあることがわかるし、鶉野で練習機に使われた97艦攻を始め、紫電と紫電改の製作記録、連絡用の白菊、天山、零式輸送機、零戦、彗星、雷電なども登場し、墜落事故なども詳しいのです。
・ 若者に知って貰いたい神風特攻隊白鷺隊
全314ページの中の約五分の一を占める神風特攻隊白鷺隊の資料と写真は目頭を熱くして読むほかありません。私は
、若い人に対して強制はしませんが、君達と同じく自由を謳歌したかったであろう若者達の死地に赴むく心境はいかばかりであったか、多少とも触れてもらえ
ればと願います。
振り返れば、全国には鶉野と同じ状況の基地が無数にあったのです。上谷さんの労作は、鎮魂のメッセージであると同時に、鶉野が、五十数年前の日本における重い史実の一典型であることを教えてくれるのであります。