《追悼》　飛行船模型作家　堀内　穣さん

　

「一人の模型作家の死」　　一人考えること　　Blue1

　友を一人失いました。
　日本では只一人、世界でも一人だったかも知れない、「飛行船模型」の作家でした。
　病魔は彼の肉体を蝕み、模型作家ホリウチユタカさんは、53歳でその生涯を閉じました。

　彼と初めてお会いしたのは、彼と親交の深かった作家Richard Ansellさんの個展会場ででした。クラシックプレーンの五面展開図をアート化した、リチャードさんの作品に交じり溶け込んでいたのが、彼の飛行船達でした。彼が制作をした飛行船は、独逸のツェッペリン伯号であり、飛行船の黎明期のころの欧羅巴や我国のものでした。更には今日我が国で飛んでいる「ツェッペリンNT」でした。
　　　（編集者注　ツェッペリンNTについてはAH-2005a参照）

　彼のクラシックバルーン達を身近で見ることは、展示会でしか叶いませんでしたが、「ツェッペリンNT」は彼の原型を元に、タカラトミーから「世界の翼」シリーズの一部として製品化されました。

　彼が病魔に侵されていたことは、リチャードさんの奥さんから伺っておりましたが、今年の七月、闘病中の彼から分厚い書簡が届きました。病室からの手紙には、６月に有楽町で開催されたリチャードさんの展示会会場に参考出展されたペーパークラフトのクラシックプレーン「タウベ」に寄せる感想でした。このタウベ機は、私がこの春に制作し、リチャードさんを紹介してくれた横浜に在住の高橋さんへ贈ったものでした。
　

　彼もペーパークラフトを愛好するモデラーでした。手紙と一緒に入っていたのが、彼が作った「トキワ荘」の1/500モデル。そしてなんと彼の入院中の病室「三井記念病院C棟12階 C1252室」の展開図1/100でした。ベッドを中心とした上面図と東西南北の壁の展開図でした。それに添えて同スケールのツェッペリンNTのゴンドラ三面図でした。彼の夢を阻む病室と、彼の人生でもあった飛行船、乗機もしたことのあるツェッペリンNTのゴンドラとの対比、今となっては更に辛い対比でした。

写真右側がその展開図

　本当は「航空会館」に於いて、来月から来年の三月まで予定されていた彼の個展、間に合わず、リチャードさんや彼の友人たちが急きょ企画し、入院先の「三井記念病院」にて企画されたと伺います。二日間の個展だったそうです。

　残念にして回復することなく、彼はバルーンに乗って旅立たれました。告別式ではタカラトミーの協力でラジコン飛行船が会場を舞ったと聞きます。仲間たちの思いをいっぱいに詰めたスカイシップが、ホリウチユタカさんと一緒に、自由な空に飛び立ったと伺いました。

　今年（2008年）は、国産のプラモデルが発売されてから50年目を迎えます。
　私のプラモ人生もほぼそれに重なります。そして私はまだその制作を続けることが叶います。叶わぬ堀内穣さんの想いを、自分の作品に込めることが出来ればと思うのです。

以下　2019/12/12記

　さて、亡くなられたから１１年。　とあることかきっかけで彼の足跡をもう一度振り返る作業をしている過程で、彼の作品が今残されてるか否かが焦点となりました。ヒントはリチャード夫人の一言「航空科学博物館に展示されていたと思いますが・・・」。

さっそく博物館へ問い合わせをしましたら、返信がありました。　紹介しましょう。

　メールありがとうございます。
　ご質問の模型ですが、現在本館２階　航空の歴史コーナーに展示しております。
　なお、常設展　　示物につきましても、展示替え等で収納する場合もありますので、来館前にお問い合わせいただいた方が確実です。当面、常設展示の予定ですが。　
　よろしくお願いします。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　航空科学博物館

　作品は手前と奥の二つのケースに収納されているようです。おそらく全作品と思われます。　緻密な、しかし穏やかな温かい作風でした。

　成田へお出でかけになられたら、ご鑑賞ください。

　なお、飛行船のプラモデルは少数ですが市販されています。ミュージアムには展示されているかもしれませんが、彼の作品は正にミュージアムクラスです。　常設展示にとどまらず永久展示にななるように願っています。　