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航空歴史館

 サルムソン2A2 乙式一型偵察機の事故 2件

 

付 優秀なエンジンではあったが、結局一代限りの星形水冷エンジン サルムソンZ-9

 

 

 杉山弘一  文:佐伯邦昭

1 乙式一型偵察機 290号の不時着



 写真に白インクで記入されている文字の拡大

 世田谷自動車隊は、1917(大正6)年に信濃町の輜重隊が移動して開隊しました。1919(大正8)年からは英国から戦車を導入しています。(ブログ SlowDaysより) 現在は、東京農業大学世田谷キャンパスになっています。

 不時着した1924(大正13)年6月19日というと、岐阜の川崎造船で乙式一型の量産が行われており、290号というのは、陸軍の乙式一型通しナンバーと思われます。



 操縦席前に突っ伏している人物は、発動機右に立っている人物との兼ね合いでみると、何かを調べているようにもみえますが、拡大してみると、犠牲者のようでもあり、実に生々しいショットです。

 エンジンは、サルムソンZ-9水冷星型9気筒230馬力です。資料によれば後部座席に7.7ミリ機銃を備えていますが、この写真では照準器のようなものしかみえません。

 前席の後ろで、ずれかかっているのは、風防みたいなものですが、どういう役割をもつののか、天井の穴は風通しのためなのか、よく分かりません。また、星型エンジンの水冷というのは、どういう機構になっているのか、各務原で復元にあたった 方々の解説を期待します。

 

 

2 乙式一型偵察機 581号のクラッシュ

 この写真について、時期や場所等に関する情報を求めます 。

Z-9

優秀なエンジンではあったが、結局一代限りの星形水冷エンジン サルムソンZ-9

 



 
フォール教育団がもたらした機体のうちで、地味ながらもっとも長く使われ、非常な功績を残したものがサルムソン偵察機である。本機をそのように傑作機たらしめたものは、まず第一に発動機が信頼性にとんでいたこと第二に、機体そのものが非常に安定がよくて操縦が楽だったことである 今川一策
                                                                                     (1962年酣燈社刊 回想の日本陸軍機)

と,、このように言われたサルムソン偵察機のエンジンは、9気筒の水冷星形エンジンです。通常の星形エンジンは、前方から空気を採り入れて、導風板でシリンダーに冷気が当たるようにするいわゆる空冷式ですから、これは非常に珍しいものと言えます。 しかし、信頼性にとんでいたこの優秀なエンジンが二世、三世と引き継がれて星形エンジンの世界に一定の地歩を築いたかというと、そうではありません。原因は、基本的には空冷なのに、それをわざわざ水で冷却するための二重の構造を設けなければならないかというコストアップの問題、もしくは、水冷却そのものが必要ないということかと思われます。

 そこで、サルムソンZ-9水冷星形エンジンの構造がどのようなものであったか、少々調べてみました。(小山、茶谷、須賀の皆さんのアドバイスを頂きました。2012/10/08

 

第1図 国立科学博物館にあるサルムソンZ-9エンジン 撮影小山澄人

 シリンダー部分と外枠だけが残っており、残念ながら水冷部分がありません。外枠は集合排気管パイプで、ガスは突起状の排気管(左右にあり)から排出されます。 



第2図 乙式一型偵察機の発動機取付準備  提供かかみがはら航空宇宙科学博物館

        第3図 上の拡大 上がエンジン本体、下左がシャッタ―、下右が蜂の巣状のラジエーター 
        

 第4図 構造
 第5図 外観
 

 ラジエーターの上に突起があり、一部の外国資料に「Hot Water from radiator」と記しているものがあり、熱水か蒸気が上がってくる装置のようにも取れますが、よく分りません。

  また、シャッターで空気を調節するというのが意味がよく分りません。ソ連機のように過冷却を防ぐためなのでしょうか。

 いずれにしても、第4図を見れば、シリンダー周りの配管など構造がかなり複雑になりそうであり、冷却効果に対して製造や整備のコストが引き合うのかどうか疑問です。サルムソン以後、この形式が全く普及しなかった理由がわかります。