飛行少年さんから 海上自衛隊で使用されていたUF-2 (HU-18) のその後について詳しく調査頂きましたので紹介します。 掲載 2025/08/14
グラマンUF-2(HU-18)飛行艇 G-111改修機 飛行少年
アリゾナ州マラーナのピナル郡飛行場に1985年頃から保管されていた機体の内、以下の7機が
遂に廃棄になる事になり、それを聞きつけた、あるミズーリ州で古い飛行機をレストアするお方が, 寸前の所で全機、一括購入しました。
それらを2年半掛けて修理し、7機の内、6機が飛び去ったと言う快挙。
それも6機分のエンジンがあった訳ではなく、一機を数日かけてミズーリ
まで飛んだらエンジンを外してトラックに積み、2,300キロ運転してマラーナへ戻り、次の機体に持って帰ったエンジンを取り付け
次の機体を飛ばしてと、想像を絶する過程だったらしいです。
幸いに道中不具合に遭遇したのはN125FBだけでエンジン不調で
ニューメキシコ州の空き地に場外不時着、機体損傷も最低限だったらしく、その後修理を終えて、ミズーリ州まで持ち帰ったらしいです。
現在、この7機のアルバトロスの内、6機は売り出し中だそうです。
N112FB G-463 Marana, Arizona 自衛隊 9055
N113FB G-332 Perry, Missouri
N116FB G-460 Perry, Missouri 自衛隊 9052
N118FB G-452 Perry, Missouri
N119FB G-456 Perry, Missouri
N122FB G-218 Perry, Missouri
N125FB G-432 Perry, Missouri
N112FB、元自衛隊の9055は、G−111型形式認定に使われたプロトタイプ機、はどうやらマラーナに残った後、海外へ(たぶんオウストラリヤ)へ売り出されるとの噂です。
このアルバトロス達、戦後間も無くニューヨーク州ロングアイランドにあるグラマン社、ベスページ工場(Bethpage, NY)で製造された飛行艇で、各国の空軍、海軍、沿岸警備隊などで使われました。
エンジンはDC3やB17でお馴染みのWright星形9列エンジンで1820はシリンダの総排気量を立方インチの意味です
(約29,800cc)。
ぼくの元同僚が1970年代初頭、HU16を沿岸警備にて飛ばしていて、海難救助、捜索など捜索などに使われていたそうす。
燃料を沢山搭載出来る特徴があり、主翼内、主翼下に付いている浮袋(フロート)それに望めば脱着可能の増槽
タンクもありました。 ただしここまで重量が嵩むと離陸性能もギリギリで、万が一片肺状態になった際、真っ先に増槽タンクを切り離し、300ギャロンの航空燃料の重量を軽くする必要があったそうです。
殆どの任務は高度1,000フィート程度の低空飛行で、航法は沿岸から100マイル以上離れ陸地からの電波が届かなくなると、ロランと天体航法でを使っていたそうです。
1960年代に入る以前から、主翼を4.9メートル延長して性能向上の改造が殆どの個体になされたのですが、結果としてこの改造が後に仇となり、
経年劣化の検査の結果、構造上の耐久性が再計算され、主翼寿命が8,900時間に制限され、この数字で退役の期限が見えてきたそうでした。
自衛隊から放出されたアルバトロス達は、大体6,000時間強で売りに出されてますから、合点します。
米国で最古の航空会社、Chalk’s Ocean Airways (チャークス)はフロリダ南部、マイアミとフォート・ローダーデールに本拠を構え、主にマイアミからバハマ諸島への路線を様々な飛行艇で運行していた会社です。 特に13年間続いたプロヒビション時代(禁酒条例)に、国外であるバハマに急遽栄え出したお酒を提供される娯楽施設 ”サルーン” へお客さんを連れて行ったり、ニューヨークから逃冬に来る富豪をカリビアンの島々に送り届けるなどで有名でした。
戦後はグラマン・マラード飛行艇を使い、1970年代、エンジンをプラット&ホイットニー・キャナダ社製のPT-6ターボプロップに換装。 その頃、機体が大型のグラマン・アルバトロスの導入を考えました。 マラードはたったの46機しか製造されなかったのに比べ、アルバトロスは464機も生産されたので、タマ数が多かったのと、丁度、上記の主翼の8,900時間の寿命も関係し、各国の軍からアルバトロスの退役が進んでいた時期です。
但し困った事は、アルバトロスは純軍用機で、民生仕様が無かったので、払い下げの中古機を買えても、通常登録は出来ず、試験用、展示用と非常に限られた用途にしか使われない事でした。 その点DC3は軍用版のC47がありましたし、C46はカーテイス・コマンドとして民間登録に変更する事が比較的容易に出来たのです。
そこでチャーク社はグラマンと技術開発のフレークス・アヴィエーション社(Frakes Aviation) に軍放出のアルバトロスを大改造し、新しい形式証明を取ると言う壮大な計画を持ちかけました。
テキサス州にあったフレークス・アヴィエーションは、様々な星形エンジンやレシプロエンジン機をターボプロップに換装する業者で、チャークスのマラードをPT-6に改造したのも同社でした。
このアルバトロス再生プログラムの一番主たる項目は主翼、その不具合があったとされるアルミナム製のスパーキャップ(翼桁の外側に付ける構造材)をタイタニアム製の新設計に作り直し、主翼寿命が無制限にされた事。 あとエンジンが50馬力強化された−82型に強化されました(R1820-82)。
新品同様に生まれ変わった民生仕様のアルバトロスはG-111型と命名され、その設計・認定には4年間かかり、最初の機体がフロリダ州ステユアートにあったウイズマン空港のグラマン工場から飛び立ったのが1981年の夏。
この機体が元、自衛隊の9055、登録番号がN112FBでした。
この機体は1981年のパリス・航空祭にも展示され、フロリダから大西洋を越えてフランスまでの回送飛行が、当時のAOPAパイロット誌に写真付6ペーに及び記事にされました。

その後、この民生仕様のアルバトロスは最初の4機がウィズマン空港の工場にて改装され、次の9機がフロリダ州セイント・オーガステインにあるグラマン工場にて仕上げられ、結局 総合計13機製造されました。
計画当初はチャーク社が最初の数機を自分の所で使い、以後の機体は他社に販売してビジネスを成り立てると言う考えだったらしいのですが、その莫大な経費に見合う採算が取れず、結局13機で終わったみたいで、実際、この最初の機体も1985年にはマラーナで保管されています。
結局チャーク社は資金難に陥り、オーナーが数回変わった後、2005年暮れにターボ・マラード機がフォート・ローダーデールから離陸直後、翼がもげ落ち、乗客・乗務員20人全員死亡と言う大事故を起こし、運行停止。 その後連邦航空局から運行免許の取り消し措置によって、航空会社としての幕を閉じます。
自衛隊出身で民生仕様、G−111に改装されたのは全部で5機。
N116FB G-460 JMSDF 9052 Perry, Missouri
N7927
G-461 JMSDF 9053 Fort Pierce, Florida
N115FB G-462 JMSDF 9054 Falcon Field Airport, Mesa, Arizona *1)
N112FB G-463 JMSDF 9055 Sale reported, Marana, Arizona
VH-NMO G-464 JMSDF 9056 Amphibian Aircraft Technologies, Port Melbourne,
Victoria, Australia
*1)持ち主のWildfire Aircraft, LLCが破産した様子で、2022年暮れにこの機体は競売に掛けられフロリダ州にある航空関係企業に登記変更されましたが、その後の動きは無いようです。
この中で興味深いのがオウストラリヤに流れていったVH−NMOでしょう。2012年にこの機は解体され船に載せられオウストラリヤまで運ばれ、Amphibian Aerospace Industries と言う会社で登録。 この会社は、アルバトロスを作り替えて最新技術を盛り込んだ新型機を製造する意気込みだそうで、実際にグラマンHU16とG−111の製造権を購入し、新しい会社を立ち上げた様子。 Amphibian
Aerospace
Industries公式ホームページ リンク
(
実際、2022年に新明和と技術支援の提携を結んだニュウスまで出ていましたが、ここ数年、動きが見られないのでどうしたものか。
ダーウィンイノベーションハブ 記事リンク
但しマラーナに一機、残された、N112FBの新しいオーナーの住所がダーウィンとなっているので、関係があるのかもしれません。今後の動向が気になります。
資料引用元
GEOFF GOODALL'S AVIATION HISTORY SITE リンク
オウストラリヤの航空管制官のジェフ・グッドール氏の古い航空機の情報サイト
残念ながら当人は2024年1月5日に死去されています。
グッドール氏のウェブサイト・情報はオウストラリア国営図書館へアーカイヴされるとの事。
中の情報はもうアップデートされませんが、過去の情報を調べるのには自由に使える
そうです。
アルバトロス・リサーチ PDF資料
リンク
関連情報
Chalk’s Ocean Airways 2005年12月19日 G-73墜落事故報告(FAA
英文) リンク
機体写真
これはマラーナで、多分1991年の12月頃だったと思います。機体番号が写っていなく、無念。。。 撮影 飛行少年

2016年6月11日。三十数年間、アルバトロス達はあちこち、置き場を動かされていました。
撮影 飛行少年

2017年11月10日。N112FB。元自衛隊機。 右奥はN119FB
撮影 飛行少年

2017年11月10日。N119FB、N122FBとN125FB。
撮影 飛行少年

アリゾナ州マラーナ、2019年4月3日。2機しか残ってません。次の画像から察すると、N116FBとN112FBですね。自衛隊の同僚機。 撮影 飛行少年

2019年4月4日。撮影 飛行少年

編集部補足 イガテック
「持ち主のWildfire
Aircraft,
LLCが破産した様子で、2022年暮れにこの機体は競売に掛けられフロリダ州にある航空関係企業に登記変更されましたが、その後の動きは無いようです。」 との説明について現在の情状況を確認しました。
N113FB, N122FB,
N125FB の所有者は BARRON
AVIATION
LLC となっています。
公式ホームページ リンク には
We have 6 of 13 ever built Grumman G-111’s. Some with as little as 30 hrs since zero-timed at the Grumman Factory in the early 80’s. Standard airworthiness no restrictoins, long wing performance, additional cabin doors, -82 engines, titanium spar caps with no life limits.
と書かれていて G-111に改造された13機のうち6機所有しており 主翼の運転時間制限がないこと、エンジンが -82に変更されていることなどが書かれています。 値段は要問合せです。
Google
Mapで現在も6機保管されていることが確認できました。
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Map
2025 格納庫前に1機 反対側に5機並んでいます。

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2025 近くに1000m程度の芝滑走路が見えます。

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2024/08 格納庫側 機番不明

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2024/08 格納庫反対側奥 機番不明

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2024/08 格納庫反対側道路側 N-119FB

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2024/08 格納庫反対側道路側 N-119FB垂直尾翼

前述の機体リストで下記のうち 6機が売りに出されているということ、2019年に残存していた機体にはCHALKYの塗装が施されていたこと、 Google
Mapの中でCHALKYの塗装機体が2機見えることから検証すると
N112FB G-463 Marana, Arizona 自衛隊 9055
FAA登録無 <-CHALKYの塗装 <-残存
N113FB G-332 Perry, Missouri
FAA登録有 <残存
N116FB G-460 Perry, Missouri 自衛隊 9052
FAA登録無
<-CHALKYの塗装 <-残存
N118FB G-452 Perry, Missouri
FAA登録無
N119FB G-456 Perry, Missouri
FAA登録無 <-写真から残存確認
N122FB G-218 Perry, Missouri
FAA登録有 <-残存
N125FB G-432 Perry, Missouri
FAA登録有 <-残存
ということで N118FBのみ別のところで引き取られたことが判りますね。
海上自衛隊で使用された 9052,9055の2機が確実に今も残っていることになりますね。