翼端タンクのないT-33Aは元 戦闘機なのだ!
吉永 秀典
先日このHPで翼端タンク(Tip Tank)の無いT-33Aを紹介してありましたが、どんな目的で飛行したのだろうか。
通常T-33Aは翼端タンクに燃料を入れる必要がない時に、他の戦闘機のように落下タンクを取り外して身軽に飛行することは無い。 例え整備や定期検査後の試験飛行であってもタンクを取り付けたまま行うのが決まりだからです。
これは本機の特性で主翼端の誘導抗力を抑制する翼端板効果を活かすもので、翼端タンク無しで飛行する場合は明確な理由があると思う。
写真1: 翼端タンクを投下した後無事に着陸するT-33A 61-5228号機
F-80の基本性能を維持しつつ最小限の改良で初のジェット練習機を実現させる為に、前部胴体を前に伸ばし胴体タンク容量207Galを95Galへと半分以上減らして後部
座席分を確保、その不足を補うべく翼端タンクを常用型にしたものです。
更 F-80C&T-33A 胴体内タンク位置と容量 イラスト図
しかし日本国内の運用で翼端タンクを外して訓練する場合、例えば天候不良や事故などで代替飛行場までの燃料を残しての訓練では効率が悪いので、タンクを外して飛行する任務は殆どなかったようです。
その特性を理解した上で翼端タンク無しでの飛行には明確な理由があったと言えます。
例えば離着陸時に速度や高度が少ない時不意に片方のタンクが外れたら瞬時に反対側のタンクも自動投棄する安全なシーケンス・システムが作動し安全を確保します。
これは姿勢を回復させるための高度がない時に有効です。
或いは翼端タンクは重心より離れているため燃料漏れや片減りなどでバランスが取れない時は意思をもって投棄します。
そしてそれ以外の理由によりタンク無しで飛行したのは、知る限りでは次期練習機T-4との交代期にあたり練習機による戦闘訓練の検証飛行をT-33Aで実施した時のようです。
普通の訓練は指定の訓練空域で行うのだが、関係者の視察や審査を受ける場合などは基地上空で行うので、近くで撮影した今回の写真はとても貴重な記録を残せたと思います。
その前後に錬成訓練などで飛行したかも知れないが認識していない。
写真2: 編成準備中の新T-4を背に編隊離陸を見せるT-33A戦闘機!? 否練習機
重たい翼端タンクの無いT-33Aは軽快な戦闘機そのままだ
翼端タンク無しで“G”制限が緩く軽快な旋回性を見せるT-33A。しかし背面時の燃料供給系統に難がありF-86Fには及ばなかった。また前席と同じ高さの後席からの視界は悪く、その後の複座機に反映されたようです。
ブルーインパルス並みのタイトな編隊を組んで進入するT-33A
軽快にブレークを見せる姿はファイターらしさがある。横操縦は油圧ブースターにより軽い操作が可能だが、縦操縦は手動式でスプリング・タブのサポートでも相応の手応えがあったようです。
翼端タンクが無い分機動飛行の制限は少ない。当然“G”スーツが作動してもリミット限界ではパイロットの方がきついだろう。
滑走路に向かう飛実のT-33A 81-5362 の機首にCal.50(12.7mm)の銃口が見えており、周辺が硝煙で薄黒く汚れているので何度か実射したのだろうか。
これは戦闘機の話に相応しい写真と言えるもの。
同機の銃口とパイロット眼前の計器盤上に射撃照準器とサイト・グラスがはっきりと見えている。普通の機体には何もない。 これなら本当に射撃できるだろう。
空薬きょう排出ドアーが前脚室直前にあり、整備時にも油圧で素早く開くので特に注意が必要であった。
F-80C&T-33A TIP-TANK接合部の簡略イラスト図
TIP-TANKの外観図と接合部分を向かい合わせて並べ同じ「丸番号」を接合して完成させるように画いてみた。 下段の一覧表で相互関係が分かると思う。
図の中の[@]スニッフル・バルブは急降下などでタンク内圧が外気圧より低下しそうな時に開く吸入弁。作動しないとタンクが外気圧に押しつぶされる。
[A‘とB’]にはタンクを投下したあと主翼側の空気圧と機内燃料が噴出しないように防止弁がつけてある。
[E]のラグを翼側の[E‘]フック・ボルトで引き寄せ規定トルクでタンクを固定する。
[GとG‘] では[G’]のソケット内にタンク投下時の「シーケンス・スイッチ」があり、左右の同時投下の信号回路の完成と翼上下の翼端灯とチップタンク外側灯を切り替える役目を兼ねる。またタンク外側の[丸B]プラグの内部にタンク投下時に作動する強力なコイル・バネを締め付けるボルトが内蔵されており、このバネの弾力でタンクを外方に弾き飛ばす。直ぐ横に「Ⓔ」バネ圧表示器がある。
[I]スウェイブレス(タンク振れ止め)は上/下の2本でタンクの位置決めと角度を決める調整用ボルトを兼ね、タンク投下時には2本とも自由に落下する。
このタンクは左右の互換性はあるが、内部配管などの組み換えや前後ピースの調整など大変複雑な作業となるので普通は左/右の完成タンクを入手し交換する。
この翼端タンクの取り外しは簡単だが、取り付けにはF-86Fのようにパイロンに吊るすタイプに比べ数倍の複雑な手順が必要で、任務変更などに素早く対応できないことからタンク無しでの飛行は殆どない。
なおタンク装着時の燃料はいつも満タンとは限らず離陸と上昇に必要な最低量など、パイロットの要求に応える量を補給する。 したがってドライ・タンクで離陸することはなかったと思う。
こうしてみるとT-33Aが翼端タンク無しで飛行する機会は殆どなかったのが分かるだろう。
戦闘機の動きが出来るなら武器が必要になる。
1965年3月14日、仕事の合間に見かけた外来機は飛実のT-33Aでガンパネルに銃口が見えたが、すでに離陸のため滑走路に向かって走行していた。何のために来たのか?
実際にT-33Aが機銃を装備したのはいつでも戦闘に使える証拠で、他にもJATOフックが付き、BOMB-PYLONを装備可能な他にエンジンの水噴射システムも予定されていたので、間違い無く戦闘機の機能を持つ優れた練習機としての路を開いた実績は大きい。
なお、時々アルコール・タンクとモーター・ポンプがあるので増速できるような記事を見るが、これは燃料系統の防氷装置でありエンジン出力には影響しない。連続で使用すると2分ももたないので普通は数秒ずつ小刻みに作動させる。 その後氷結し難い燃料成分に改善したJP-4Aにより使用を止めたがシステムは残してある。 その余剰アルコールは仕事上の潤滑剤?として役に立ったように思う。(この部分は深く追求しないでおこう)
また米空軍では1952年頃「アクロ・スターズ」というアクロチームがP-80からT-33Aのタンク無しに移行するなど人気を博していたようです。
翻ってその後の我が国産練習機の非弱さは、多用途に向かない考えで設計されたのか、改良も延命も不可能で外国に供給することも出来ないままに終わったのが、とても残念なことだと思います。
以上、 写真/図/文責 吉永秀典
編集掲載日 : 2023年03月04日
WEB編集 : イガテック
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