新 F-86F & T-33AのAAG(空対空用)
BANNER TARGET について
吉永 秀典
航空自衛隊の防空任務は戦後最初の戦闘機F-86Fにより始まり、全てが初めての重要な各種飛行訓練のうち最終目的は空対空射撃技術を確実に身につける事であった。
この空対空の射撃はただ操縦が上手いのとは別の能力を必要とするなどの専門的な説明はその筋の専門家に譲るとして、ここではF-86FのAAG(AIR to AIR GUNNERY: 空対空射撃)訓練に使用されたBANNER TARGET SYSTEM(曳航式標的)を取り上げた。
これまでの空中曳航式標的は布製円筒形の吹き流し式が主であったようだが、速度の速いジェット機には適さない上に命中銃弾数の確認には標的の形状や方式を変えるなど試験を重ねた答えがここにある。
それがF-86Fのマザー・スコードロンである1空団と飛実の技術的な支援により確立されたもので、実用までには相当の困難があったと担当者から聞いている。
最初のF-86F標的曳航機(これ以降TOW-SHIPと呼称)は同じF-86F左翼下に付く「BOMB- PYLON」(爆弾架)を基本にその一部を改修して「TOWING-PYLON」を誕生させた。
(イラスト図参照)
TOWING-PYLONは左翼下タンクの内側に付くため離陸時の横風と引き起こし速度維持のほかターゲットが滑走路を離れるまでは脇の距離マーカーや施設機器などへの接触や曳航速度によりラダー・トリムを調整する必要があり、さらに左/右方向での旋回率が異なるなど高い操縦技術を要求されたようである。
F-86F TOW-SHIPがバナーターゲットを曳航して離陸(イメージ画像)
F-86Fバナーターゲットは空中で片方の錘によりほぼ垂直姿勢を維持する。
最前部の丸い発泡スチロール・カバーの中に射撃用レーダー・レフレクターが入っている。
F-86F (62-7703 1SQ) 左翼下のTOWING-PYLONの形状と装着状態で
TOW-パイロンのサイズと後部のケーブル抑えの丸輪と地面との関係がわかるし、
ウィング・フラップのフルダウン時にもケーブルに接触しない位置でもある。
F-86F 左の「BOMB-PYLON」(500Lb訓練弾)と改修後の「TOWING-PYLON」の
後方へ延びた丸い輪の「CABLE DEFLECTOR」の様子で、後述イラスト図中の[矢印B]と
[矢印B’]がこれ。(DEFLECTOR部分は画像処理)
F-86F ARMING AREAでDE-ARMING作業中、パイロットの手は外にハンズ・オフを維持する。万一暴発した時などパイロットは何も触れていなかった証明とするため。
F-86F/T-33A BANNER TARGET SYSTEM展開図の説明
先発のTOW-SHIPはF-86Fであったが後発のT-33Aも基本的には「TOWING RACK(TYPE MA-4A)」と「BANNER TARGET(TYPE A-6B)」 及び 「TOWING CABLE」などを共通とし部品の調達を容易にした。
先ず先発のF-86Fは左主翼下面に装着する「BOMB PYLON」を流用し、1,000Lb 爆弾を吊るす強度を持つ「BOMB-RACK」をそのまま利用して「TOWING CABLE」に接続した「BANNER TARGET」を牽引するシステム。 この場合後方へ伸びるケーブルがウィング・フラップに接触するのを避けるために丸棒を下に延ばしたケーブル抑え「CABLE DEFLECTORと輪」[矢印B]の中を通して解決した。
その輪にCABLEが強く当たる部分に保護テープを巻きそのCABLE部分も強度を高めた「SAB-CABLE」を約10 ftを足して安全性を高めた。 それでも「LUG」に繋がる「SAB-CABLE」と鋼鉄製の耐摩擦用STEEL BELTを巻いた長さ約1,000ftの「TOWING CABLE」および「BANNER TARGET」本体などの重量と風圧に耐える強度は絶対必要であった。
なおこのBANNER TARGETのポリエチレン製ネット(6ft x 30ft)を打ち抜く機銃弾には各機別に着色され各パイロットのヒット・カウントを容易にした。 その塗料には当然のこと乾燥の遅いエナメル系の4色が指定され、時には誰がケーブルを打ち抜いたか犯人探しもあったとか。
このターゲットの前部には射撃用レーダー反射器「RADAR REFLECTOR」とTARGETを垂直に維持させるWEIGHT(錘)と離陸中に滑走路での摩耗を防ぐROLLER(滑車)が片方に付けられていた。
後発のT-33A TOW-SHIP機の必要性は、経験の浅い操縦学生初期の射撃訓練にF-86Fでは速すぎるために要望されたようであるが、他の部隊での必要性は確認出来なかった。
T-33Aの改修の場合、共通のTOWING RACKを利用し中央胴体下面の「JATO HOOK」の内側2枚を外した後に小さな箱を水平にした「TOWING RACK BOX」の中に取り付けられた。 この2枚のJATOフックは「トラベル・ポッド」と同じ位置を交換し「TOWING-RACK」を水平にした事で「SHACKLE」は2個が利用可能となり「SAB-CABLE」前端の牽引金具「TOWBAR」は2本の「LUG」で構成でき強度と安全性を高めた。
なおTOWING RACK後面の「MANUAL RELEASE LEVER(手動投下レバー)」は操縦席から操作するものだが、地上では「レバーを前方へ動かして解放する」機構のため、飛行中の異物衝突程度では開かない安全性があった。
普通は動作確認のための“LOCK & OPEN/RELEASE”は整備員一人で可能であった。
このT-33Aの「TOWING LACK BOX」及び「TOWBAR」は部隊整備の機体修理班により作成されたが、後年これを参考にしなかった他の部隊では独自の形状で作成されたものも見られた。
例えばJATOフックにRACK-BOXをボルトで固定した荒業など・・・は強度が心配であった。
そしてF-86Fの任務開放/現役引退と共にこの両タイプのTOW-SHIPの運用は終了した。
T-33A TOW-SHIPターゲットのショット・ダウンにより射撃中止で全機が編隊で帰投。
戦闘機の機銃残弾は生きているので他の訓練に振り代えが出来ないからだ。
TOW-SHIPの
TOWING CABLEの残りなどは全機着陸後に基地内の指定エリアに投下される。
T-33A TOW-SHIPの離陸イメージ画像 エンジンのパワー不足で上昇率も速度も低いが、経験の浅い学生による初期の射撃訓練には少し低い速度が必要であったようだ。
それでも“ノーヒット”の学生は再教育を受けることになるだろう。
なおT-33Aでバナーターゲットを曳航するとき、機体の中心線上で牽引するため
に左右の“トリム”は必要ない・と言うより元々「ラダー・トリム」は装備していな
いし、そのように静的安定性の高い機体でもある。
T-33A TOW-SHIPの帰投シーンで安堵するパイロット、お疲れ様でした。
もしダイブ・フラップが“UP”の状態であれば離陸前のTAXIと判断していいだろう。
なおこのような改修機には当然「トラベル・ポッド」は取り付けられない。
更 2023/05/24
酒井さんから百里基地で運用されていたBanner Targetの写真を頂きました。
離陸前のファイナルチェック中です。 Targetの大きさが作業者と比較して判ると思います。
撮影日不明 百里基地 酒井収
編集掲載日 : 2023年05月22日
WEB編集 : イガテック
禁無断転載